詐欺犯が身元隠蔽手段としてプリペイド携帯電話や架空口座を使用することは、もはや周知のものとなりつつありますが、それでもインターネットタウンページや地図情報サービスなどを使って電話番号や住所に矛盾がないかを確認することで嘘を見抜くことが可能でした。しかし、その方法でも相手の嘘を見抜くことが困難な事例が登場しました。


それがNTTの「去中転送」というサービスを使った犯行です。これは一般的にはあまり知られていないサービスですが、例えば引っ越しをする際に「引っ越す前」の事務所の電話番号にかかってきた電話を、NTTの交換機内で自動的に「引っ越す先」の事務所の電話番号へ転送するサービスです。一見「ボイスワープ」と同じように思えますが、「ボイスワープ」は電話機が実際に設置されていなければ転送できないのに対し、「去中転送」の場合は電話機がなくても転送が可能な点が異なります。

今年4月に架空の会社名でパソコンの個人売買を持ちかけていた詐欺事件を調べたところ、犯人が名乗っていた事務所の所在地が都内のウィークリーオフィスであることが判明しており、しかも電話番号の市内局番はウィークリーオフィスの存在する場所の局番ではなかったことから、おそらくこの「去中転送」を使ってウィークリーオフィスの電話で受けていたものと推測しています。

そして厄介なことに「去中転送」にはNTTに対して「転送履歴を残さない」という指定が可能なため、これを併用すると転送元の電話番号がNTTにさえ分からなくなってしまいます。さらにウィークリーオフィスの契約に偽造の身分証明書を使用していれば、そこでジ・エンドです。

今回、騙されてしまった方はかなり慎重派の方だったので、事前にNTT104で住所、社名から電話番号を確認していたのですが、なんと104には登録されていたのです。 不思議ですね。何故、ウィークリーオフィスの住所で転送元の電話番号を104登録できたのでしょう? この理由を元NTT社員の知人に尋ねたところ、次のような答えが返ってきました。

「104は今は沖縄で一元管理している。しかもアルバイトがほとんどである。よって同じ区内の電話番号であったなら、実際の契約住所と多少異なっていたとしても気付かずにノーチェックで登録されてしまうことがある。」

ということでした。
犯人は通信系の事情に詳しい人物であることが伺われますが、問題は、こういった 手口をどうすれば事前に見破ることが出来るかと言うことでしょう。

詐欺犯がウィークリーオフィスを引き払う前に通報してくれていれば、まさに詐欺の真っ最中の現場に乗り込むことができたのかな?などと思っていますが、これは、たとえ話。詐欺犯もバカではないので、詐欺だと気付かれる前に短期決戦で臨んでくるでしょう。

「実際に相手の名乗る住所まで出向いて行って実在する会社かどうか確認する」
ということしか今の私には思いつきませんが、遠方の方がいちいちそんな事していては交通費の方が高くついてしまいますね。いっそ、都内に限って「現地確認業務」でも始めるか?もちろん有料で。なんてスタッフと話していました。