米国と日本では行政組織と民事上の消費者救済制度に大きな違いがある。 例えば日本で民事上の紛争が生じた場合には、話し合いや調停、裁判などにより当事者同士が対峙するしかない。消費者相談センターが和解の仲裁をしてくれることはあるが、交渉が決裂してしまった場合はお手上げである。また、被害者が多数発生するようなマルチ商法や悪徳商法の事件では集団訴訟が行われることもあるが、これも被害の当事者であることには変わりがない。

ところが米国では被害者が多数発生しているような大きな問題に関しては連邦取引委員会(FTC)が直接民事提訴することがある。この違いは大きい。


「米国連邦取引委員会」を、あえて日本の行政組織で例えるなら「公正取引委員会」ということになるのだが、「公正取引委員会」は景表法違反・カルテルなどに関して行政上の措置や検察庁への告発を行うのみであって、決して被害者に代わって訴訟を起こすことはない。(ということを今日、公正取引委員会の広報に聞いた。)つまり米国と日本の民事救済制度の最大の違いは、事業者の監督・指導を行いないつつ、公益保護のための訴訟を起こす行政機関があるかどうかということではないだろうか。

最近のニュースでは、破産した米国大手のオンライン玩具販店「トイズマート・コム」が顧客データを第三者に売却しようとしている問題で、売却差し止めを求める訴訟をFTCが連邦地裁に提訴していた。 トイズマートは顧客から個人情報を収集する際に「決して第三者に提供しない」との方針を掲げていたが、これに違反して売却することは「不当表示」に当たるとして、FTCが提訴していたのだ。この訴訟は、オンライン・プライバシー保護の点から注目されていたが、7月21日、同社と和解し、条件付きで売却を許可すると発表した。

もし同様の問題が日本で発生したとしても、消費者の個人情報を保護する為の訴訟を起こす行政機関はない。かといって顧客一人一人が事前に自分の個人情報の売却差し止めを求める訴訟を起こすこともないだろう。何故なら保護すべき「プライバシー」と「訴訟費用」とのバランスが取れないからである。

またFTCのこうした活躍は「不当表示」や「プライバシー保護」に関してだけではない。 WEB110で昨年告発していた国際カード詐欺事件(通称N-BILL事件)においても、FTCは連邦地裁に民事告発、容疑者の資産凍結を図ったのだ。他ならぬ FBIでもシークレット・サービスでもなくFTCがである。日本では、残念ながらこうした動きは期待できない。例え詐欺事件として刑事告訴したとしても民事的な被害救済は別問題なのである。

私が思うに、日本の民事救済制度の問題点を解消するためには、消費者トラブルを最も「早く」「直接的に」「無料で」聞きうる立場である消費者相談センターが、アドバイスだけではなく独自の調査部門を持ち、尚かつ消費者に代わって訴訟を行える権限を持つことが必要なのではないだろうか?ついでにFBIのような広域捜査機関も必要だろう。 少なくともネット上の消費者トラブルに関してはWEB110が「無料相談」→「広域調査」→「告発」を行ってきた。しかし、これはもはや個人が請け負いきれる状況ではなくなってきている。

何とかして欲しいのはやまやまなんだが、日本の縦割り行政の中では実現する日はほど遠い気がするな。