電子商取引における契約成立時期が「申込みに対する承諾通知が相手方のメールボックスに読みとり可能な状態で到着した時、あるいは画面上に承諾内容が表示された時」とする到達主義であることはご存じの通りです。

しかしこの場合、仮に申込み者が「承諾通知のメールは届いていない」 とか「画面上にも表示されていない」と主張した場合に果たして相手方はそれをどうやって反証するのでしょう?

以前私が講演で契約成立時期のお話しをした際に、受講者の一人から上記のようなするどい突っ込みをされて焦ったことがあります(笑)

申込者の利用するプロバイダが、POPサーバーの受信記録を相手方に開示してくれるというのなら証明も可能とは思いますが 現実的にそれは期待できないないだろうと思いますし、仮に受信記録を開示したとしても、メールの本文まで保存しているとも思えないので、そういうことであればこの定義付け自体が実体に即していないのではないかと思い始めた次第です。

つまり真実の証拠を持っている通信媒介者が、それを証拠として提出しないということが明らかであるなら、「確実な契約成立の実現」を目的として、あえて到達主義とすることは合理性に欠けるのではないかと思うのです。

※発信主義であったなら、送信者が自前のSMTPサーバーの記録を残すことで事後的な立証は可能ですし、迅速な商行為の促進という目的にもかなうので合理的だと思います。 他人によるなりすまし注文の危険は生じますが、それは受注後のプロセスの中で本人確認を行えば回避可能と思います。

ECOMのネットショッピング相談室にもかつて同様のトラブル相談が持ち込まれて、契約が成立しているとみなすべきかどうか調停で議論したことがありました。

その時は最終的に、「申込者は承諾通知がメールで送られることを事前に知らされていなかったし、画面上に承諾内容が表示されたという証拠も存在しないため、契約が成立しているとは認められない。」 と判断しました。 そのケースではBtoCの契約トラブルだったこともあったので 消費者保護の観点からも無難な調停案だと考えたわけですが、 BtoBであれCtoCであれ、結果的には同じ結論を出さざるを得ないのではないかと思います。

たしかに、実務上は「契約は不成立」と判断して現状復帰を促すという判断で特に問題はないのでしょうが、そのことと法律の定義付けとは別問題と思うわけでして、あくまでも到達主義とするのであれば、発信者側にも メールが相手先に到着したことを確実に確認できるような仕組みの存在 (郵便で例えるなら配達証明)が前提となるべきでしょう。 到達したことを客観的に把握できない限りは、裁判官が「契約は成立している」と判断することは一度もないでしょう。

POPに配達証明自動返信機能が実装されたら解決できる問題ではありましょうが、 そうなると今度は、メールが文字化けして読めなかった場合でも契約が成立したこととして扱われる危険性が生じますし、それらとは無関係なところで スパマー(迷惑メール送信者)にとって有効なアドレス確認の格好の道具として活用されそうで、 手放しで喜ぶわけにもいきません。

この問題について、皆様からもご意見がいただけると幸いです