インターネットを悪用した諸問題の早期発見と対応策を考えるサイト

ネットオークションの落とし穴

第一回は「ネット通販の落とし穴」について勉強しました。しかし詐欺はネット通販だけで発生するわけではありません。むしろこれからお話しするネットオークションなど、いわゆるC2C(消費者対消費者)型の取引の方がトラブルの件数ははるかに多く、自力救済も極めて困難なのです。

詐欺師は時代と共に進化する

日本にネットオークションが登場し始めた2年前は、詐欺の手口はシンプルで乱暴なものでした。つまり、代金を先に振り込ませておいて、そのまま商品を送らずにバックレルと言うものです。もちろん出品者の住所や電話番号はデタラメで、客観的に見ても詐欺であることが明白でした。しかし2001年の5月から、ヤフーオークションがクレジットカードによる本人認証を開始したことにより事態は急変しました。つまり、「匿名だからどうせばれないだろう」という軽い気持の素人詐欺は激減し、その代わりに、他人のIDを乗っ盗ったり、クレジットカードやプロバイダのアカウントまで他人のものを不正使用して偽装工作するような本格的な詐欺師と、法律やオークションシステムと社会構造の弱点を巧みについて、問題を事件化させないような知恵を持った本物の知能犯が残ったわけです。結果 的には、中途半端な規制をかけたことによって利用者に変な安心感と隙を与え、その一方で犯罪の手口が益々巧妙化し、ハイテク犯罪に弱い警察が捜査し難くなっただけの話しです。

事件化を免れる巧妙な手口

「お金を受け取って商品を送らない」と言う行為は、民法上の債務不履行です。しかしそれに加えて、自分の身元を偽っていた場合には、最初から相手を欺瞞(ぎまん)する意思があったとして、刑法上の詐欺の適用を受けることになります。刑事事件となれば警察が介入してきます。すると、身元を特定される可能性が高くなります。そこで最近の詐欺師は、あくまで外形上は民事上のトラブルであるかのように装う手口に移行しつつあります。

相談事例

ネットオークションにデジタルカメラが出品されていたので入札し たところ出品者からメールが届き、「4万円で買ってくれるなら即決終了します」と言ってきました。出品者の評価欄にはマイナスはなく、取引実績も豊富でし た。商品はゆうパックの代金引換で送ってくれるとのことでしたので、安心してその条件で取引を成立しました。しかし代引きで届いた箱を開けると、中身は古新聞でした。

騙されたと思いすぐに郵便局へ代金の返還を求めましたが、いったん開封したものは返金できないといわれ、出品者にメールで確認を取ってみたのですが全く返事はなく、携帯に電話をかけても一度も出てくれません。

警察に相談したのですが、「物が届いている以上警察は介入出来ない」と言われました。出品者の住所へ直接訪ねて行ってみると、「自分は確かにデジタルカメラを送った。そっちこそ言いがかりはやめろ。」と言われました。

消費者相談センターに相談してみましたが、「相手が個人の場合には介入できない」と言われ、警察へ被害届を出すように言われました。

最後にオークションサイトへ補償の適用を申請しましたが、「システム上落札したのではないので補償の適用対象にならない」といわれました。もう八方ふさがりです。

このケースを整理してみると次のような問題点が見えてきます。

  1. 荷物は届いている
    このケースの最大のネックは「物が届いている」という点です。本当に中身はデジタルカメラではなく古新聞だったのだろうと思いますが、その真相は当事者以外の第三者には分かりません。なかには、ちゃんと商品が届いているにも関わらず、「壊れていた」と言って相手に返金を要求し、お金だけ騙し取るようなケースもあるからです。
  2. 出品者の過去の評価は悪くない
    この出品者の場合、詐欺を開始するための下準備として、小さな取引でこつこつと信用を蓄積してきています。まさに計画的犯行です。評価だけを見る限り、相手が詐欺だと判断することは困難です。
  3. 出品者と連絡をとることが可能である
    出品者が名乗る住所や電話番号は実在するものである。従って騙す意思があったと断定することが難しい。
  4. 出品者が個人である
    出品者が事業者であれば消費者相談センターなどが仲裁することも可能だが、個人なので仲介できない。
  5. メールによる直接取引きを行っている
    取引に際して「即決終了」を持ちかけることにより、オークション上で落札させていない。その理由は、システム上落札させないことによって、自分の評価にマイナス評価をつけさせないためです。何故ならオークションサイトによっては、評価を投稿できるのは最高落札者に限定されているところがあるからです。メールで直接取引きを持ちかけられた入札者は落札者ではありませんから、評価を投稿する権限が与えられず、結果 的に相手の評価には傷がつかないということになります。しかも、オークションのシステムを利用して落札していないので補償の適用も受けられません。

事後救済が困難な理由

インターネットオークションで詐欺に遭う人の傾向を見ていると、大多数の人に共通していることは「相手の身元を十分に確認しないままお金を先に振り込んでしまっている」という点です。そして、「騙された!」と気づいて初めて相手の身元が嘘だったと気づいています。いったん詐欺師にお金を騙し取られてしまったら、被害者が自力で被害を回復することはほぼ不可能と言ってもよいでしょう。その理由は匿名性にあります。これはなにも、詐欺師がフリーメールや無料プロバイダを使用している場合だけでなく、普通に自分のプロバイダを使って詐欺をはたらいていたとしても同じことです。メールアドレスやIPアドレスから契約者が特定できるのは、あくまでそのプロバイダだけであって、被害者がいくらお願いしても、プロバイダが裁判官の発する令状なくして会員情報を開示することはないからです。ところがその警察はどうかというと、1件あたりの被害が小額で、被害者が全国に点在するネット詐欺は被害の深刻さを把握し難く、捜査に及ぶケースはごくまれです。相手がわからない限り、民事的に解決することは不可能です。例え運良く相手の身元が判明したとしても、オークションのようなCtoC型の取引となると、売る方も買う方も同じ消費者同士ですから対等の関係です。従来の事業者と消費者間の通信販売(BtoC)などとは違って、消費者を保護する組織も法律もありません。そのために債務不履行型のトラブルが急増しているようです。


逮捕されてもお金は戻らない

詐欺師が逮捕されたら騙されたお金が返ってくるか?と言えば答えはノーです。「なんで?」って思いますよね。しかし警察の仕事というのは、あくまで犯罪者を逮捕して検察に引き渡すことであって、被害者に対する損害補償までは面倒見てくれません。そういうことは民事の問題なので、被害者が直接交渉すべきことなのです。これは一般的に、加害者側の弁護士との示談交渉というかたちで行われます。しかしここでもまたひとつ問題があります。)実は被害金額の全額が戻って来ることはほとんどないのです。何故ならば、短期間で多数の被害者を生み出すネット詐欺では、逮捕された加害者にはすべての代金を弁済する資力が残っていないからです。過去の事例では、騙し取られた代金の10%程度の弁済で示談に応じて欲しいとの提示が弁護士からありました。このケース、実は犯人は詐欺で有罪の判決を受けて執行猶予中の身でありながら、まったく懲りずに再犯を犯していました。初犯の被害者には親兄弟が私財を投げ打って弁済したようですが、今回はさすがに親兄弟もお金の工面がつかず、精一杯の提示額が10%だったようです。しかし当の犯人は騙し取ったお金で豪遊して、すべて使い切ってしまっていたそうな。なんかむかつきますね。

こうした状況での被害者の選択肢としては、
1.示談に応じて10%を返してもらう代わりに告訴を取り下げる
2.お金のことはあきらめてでも、相手の刑事責任を徹底追求する

この二つに一つです。仮に被害者全員が示談に応じて告訴を取り下げれば、被疑者は起訴猶予になり無罪放免される可能性があります。もちろん起訴されることもありますよ。しかし、刑事裁判を行ったとしても、被害者全員と示談が完了しているような場合には、情状に大きく影響し、極めて刑が軽くなるでしょうね。初犯ならば執行猶予もついて、すぐに釈放です。とは言え、被疑者が例え懲役10年の実刑になろうとも、示談に応じなかった場合には、今度は被害金額をまったく取り戻せなくなる可能性があります。果たして被害者の心情としてはどちらを選択するでしょうね。ん?ナニナニ?補償制度があるから大丈夫だって?


補償制度を過信してはダメ

オークションの補償制度もあてにしてはいけません。例えばヤフーオークションのセーフティ補償では、補償を受けるためには警察の被害届受理番号が必要とされています。しかしすぐには詐欺事件とは判断してくれませんし、すでに捜査中の案件については改めて被害届を受理してもらえないケースもあります。だからといって正直に「補償を受けるためには警察の被害届受理番号が必要なんです」と言うと、「被害届というのは補償を受けるために受理するもんじゃない」と一喝されるのが落ちです。事実そう言われちゃった被害者がいますから。しかも1つの出品について補償される金額には上限(ヤフーでは50万円)が設けられている事が多く、被害者が複数いる場合には全員で折半になることがあります。被害者が50人いれば一人当たり1万円しか補償されません。また、補償の適用は1年に1回までとの制限があるところがありますので、あまり補償制度をあてにしないようにしましょう。

もう被害者としては踏んだり蹴ったりですね。 「あーもうなんでお金を振り込む前に電話を一本かけてみなかったんだろう」「代金引換にしとけば良かった」「エスクローサービスを利用しておくべきだったな」などと考えても、全ては後の祭りです。被害の事後回復が困難な個人間取引では、「いかに騙されないようにするか!」ということが最も大事なのことだとを肝に銘じておいて下さいね。誰も助けてはくれないのです。


詐欺の被害に遭遇した場合の対処法

1.商品は大切な証拠になるので手元に保管しておく

腹が立ったからといって捨てないように。何も届かなかった場合には、振込み明細を保管しておきましょう。

2.相手の連絡先が虚偽であることを確認する

住所は地図または地図検索サイトで確認し、現存する住所であるならば、それが民間私書箱や秘書代行サービスの所在地でないかどうかを確認する。いずれでもない場合には、そこに本人が居住しているかどうかを確かめるために内容証明郵便を送付してみる。その結果、郵便が返送されていたならば、連絡先が虚偽であり、最初から騙す意図があったことを警察に伝える。

3.他に被害者がいないかどうか調べる

同じ商品に対して複数の入札者がいた場合には、その人達に対して、メッセンジャー機能などを利用することでコンタクトを試みてください。もし他にも騙された人がいる場合には、その方達の連絡先と被害情報をリストにして、それぞれが地元の警察署へ被害報告に行きましょう。また、複数のオークションサイトや売買系の掲示板でも詐欺をはたらいている可能性もありますので、ロボット系のサーチエンジンを用いて被害情報の検索をしてみるのも良いでしょう。検索キーワードとしては、取引相手のメールアドレス、氏名、口座情報などをキーワードなどが有効です。 警察へ被害届を出しに行く時は、相手とやり取りしたメールやオークションの画面、評価欄等を印刷して、荷物と送り状の控えと共に持っていくとよいでしょう。これだけでも警察の心証はずいぶん異なってきます。

4.容疑者が、その後も継続して同じ商品を出品していないか確認する

自分達への債務を履行していないも関わらず、また新たに同じ商品を出品しているようであれば、その時点で詐欺の意思ありと判断できます。

5.被害届が受理されたなら、オークションサイトの補償請求手続きをする

補償請求手続きはサイトによって異なりますので、各自お調べください。


騙される前に活用して欲しい役立ちサイト

マピオン
http://www.mapion.co.jp/
住所を指定することで地図情報が検索できます。

インターネットタウンページ
http://itp.ne.jp/
住所や電話番号とあわせて業種を指定することにより、タウンページデータベースに登録されている店舗や会社情報が検索可能です。業種分類に「代行」というキーワードを指定すれば、秘書代行や電話代行、民間私書箱などがヒットします。

詐欺容疑者リスト
https://web110.com/wanted/
WEB110に寄せられた被害報告をもとに、容疑者が名乗る口座情報や詐欺の手口、被害届が受理されている警察署の情報などが参照できます。

FreeMail lookup
https://web110.com/fmchecker/form.html
取引相手のメールアドレスがフリーメールでないかどうかを簡単に判定します。


詐欺以外のオークショントラブル

また、オークショントラブルの中には、詐欺以外にも様々な問題があります。たとえば仲間同士で共謀して入札価格を吊り上げる手口や、女性の個人情報を集めることだけを目的に、明らかに女性と思われる出品者に限って高値で落札し、連絡先を聞いただけでお金を支払わずにキャンセルする人間もいます。普通 、一方的にキャンセルされたなら、相手に対して悪い評価をつけても良いのですが、女性の心理としては、自分の個人情報を把握している不気味な男を怒らすようなことはしにくいものなのです。その結果、男の評価欄にはこうした事実が反映されないこととなりがちです。そんな手合いに引っかからないためには取引相手の評価欄を注意深く観察することも重要です。もちろんこの評価欄とて、あくまで参考情報の一つに過ぎません。先にあげた例のように、オークションの終了を待たずに、即決終了によって騙された人からの評価は、ここには反映されないからです。マイナスの評価がないからと言って安心するのではなく、その人物の取引履歴を細かく分析して行くくらいの慎重さがないといずれは騙されることになるでしょう。では、どういう視点で分析して行けばよいかをご説明しましょう。

まず最初に、サクラ入札をしているグループの見極め方です。これについては、評価をつけている人のIDを注意深く観察します。普通に考えて、利用者が数百万人もいる中で、同じIDの人と何度も取引すると言うことはあまりありません。しかしサクラ入札をしているグループでは、仲間同士で互いに入札し合うことで価格を吊り上げ、相場以上の価格で第三者が落札することを狙います。しかし時には終了間際の入札のタイミングがずれて、仲間同士で落札してしまうことがあります。その場合には、実際には売買していないにも関わらず、互いの評価を上げるために「非常に良い」という評価を与え合うわけです。従いまして、同じIDのユーザーから何度も良い評価がつけられていたならば、今度はそのユーザーの評価欄を見てみるわけです。するとおそらく、先ほどの出品者が、今度は落札者として度々登場して「非常に良い」というコメントを残していることでしょう。このような方法で、頻繁に出てくる評価者の評価をそれぞれ見ていくことで、どのIDとどのIDが仲間なのかが見えてくるものです。

次に、個人情報収集だけを目的に落札している人物の見極め方ですが、残念ながらこちらに関しては、これといった確実な確認方法はありません。強いてあげるなら、どういう商品を落札してきたかという落札履歴と、その落札に対する出品者の評価のコメントを見ることでしょう。何故なら、女性の個人情報収集を目的だけにオークションを利用しているのであれば、落札してきた商品は、明らかに女性が出品しそうなものに偏っていると思われるからです。例えばレディスの古着やパンプスやコスメ商品です。もちろん女性の中にも、そうした商品だけを落札している人はいるかもしれません。だから次に出品者からのコメントを参照するのです。一方的に取引をキャンセルされたなら、例え前述の理由により「非常に悪い」という評価はつけ難いとしても、さすがに「非常に良い」という評価もつけないでしょう。おそらくは「普通」の評価を与え、「またの機会をお待ちしています」のような無難なコメントを残すのではないでしょうか。ですから、そういった内容のコメントが度々あるようなユーザーは要注意人物と判断してブラックリストに登録しておけばよいかと思うのです。

それにしてもまあ、色々なトラブルがあるものです。 これだけのことを書き綴ることが出来る私は、実は一度もオークションを利用したことがありません。なのにまるでオークションのエキスパートのように思われています。社会安全研究財団と言うところから、国内外のオークションの実態調査の依頼を受けたこともあるせいで、やたらと事情通 になってしまいましたが、知れば知るほど利用する気が失せていくのです。もちろん利用したとしても絶対に騙されないぞっ!騙されることなんてあろうはずもない!という自信はあるのですけど、そのためには色んなことに注意を払わねばならないわけで、それを考えると面 倒くさくなってしまいます。めんどくさがり屋で用心深い性格が私をオークションから遠ざけているのかもしれません。皆さんは、くれぐれも用心してくださいね。

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