投稿者がどこの誰か分からないままに掲示板で権利侵害がなされた場合、被害者に取りうる対策は「ただひたすら削除依頼する」だけになるのでしょうか?
でもそれでは、削除と書き込みのいたちごっこになってしまい、いつまでたっても事態が収集しない結果になりかねませんね。では、投稿者を身元を特定することは可能なのか?という話しになると思います。
ここでネックとなるのは、一つは掲示板の管理者の姿勢であり、二つ目は、プロバイダの対応です。掲示板の投稿者(以後、発信者とします)を特定するためには、まずは、発信者のIPアドレスを確認する必要があります。しかし、この情報は掲示板管理者でなければ分からないケースが多く、ここで管理者がIPアドレスを開示してくれなければ先へ進みません。
運良く管理者からIPアドレスが開示されたなら、次はそのIPアドレスを所有するプロバイダに対して、会員情報の開示請求を行うことになります。しかしご存知のように、インターネットサービスプロバイダが保有する契約者情報及び通信記録は電気通信事業法により保護されており、裁判官の発する令状がなければ原則開示されないことになっています。
本来は弁護士会照会制度による任意照会に応じてもよさそうですが、その判断はプロバイダによって温度差があります。ただし、コンテンツ・プロバイダやアプリケーション・プロバイダの場合には捜査関係事項照会書による任意の照会でも開示することがあります。
被害者が取り得る手続きは被害事実を証明する為の資料(掲示板の書き込み内容と、発信者のIPアドレス)を用意し、プロバイダのログが時間の経過によって消えてしまわないように、あらかじめ通 信記録の保全を依頼し、その後、刑事告訴するところまでです。相手が海外の場合には、国際刑事機構を通じて現地の警察の協力のもとに同様の手続きを取ることになりますが、事実上、軽微な事件ではそこまでの捜査はなされません。
また、削除依頼に応じない掲示板管理者の法的立場についてですが、これに関する司法的見解を示す事例として一つの判決が出ました。それは、動物病院に対する中傷発言の削除に応じなかった2ちゃんねる管理人に対して、当該記事の削除と400万円の賠償金の支払い命令が下ったというものです。管理人は「発言の真実性などが明らかでない場合は削除義務を負わない」と主張しましたが、裁判長は「被害者が書き込み者を特定することは事実上困難。被害回復の方法が著しく狭められ公平を失する」と退けたとのこと。
細かく議論して行けば、プロバイダ責任法や電気通 信事業法第3条4条(検閲禁止・秘密保護)、管理行為の許容範囲、作為義務違反(放置責任)、共同不法行為責任(不法行為の存在に積極的に加担している場合)など、議論は絶えないのですが、そんなややこしい屁理屈は抜きにしても「無責任な掲示板管理者は、やっぱり法律上も保護されない」という結論は当然かなと思います。
皆さんはくれぐれも、そうした管理者にだけはならないようにしてくださいね。
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