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アポイントメント商法

時々テレビの報道番組で悪質デート商法の手口を潜入取材している様子を見ることがありますが、そのほとんどは出会い系サイトを営業の舞台として利用しているケースですね。 そこで今回は、こうしたデート商法の具体的な手口と被害実例をご紹介することにします。

デート商法というのは、毛皮や宝石や絵画など、もともと高額な商品をさらに相場の数十倍の値段で売りつけるような悪質な会社の販売員がデートを装って消費者を呼び出し、そのまま強引に契約を取る行為で、本来の目的を継げずに消費者を勧誘するアポイントメント商法の一種として消費者契約法でも規制している違法な商行為で、契約の取り消しが主張できるものなのです。しかし番組のインタ ビューでも「はっきり言って出会い系サイト以外ではもう営業できない」と販売員自らが告白していることからも、出会い系サイトが営業手段の要として利用されていることは明らかな事実と言えます。


これまでのアポイントメント商法

ではアポイントメント商法の勧誘方法に関して、従来と最近とではどのように変化してきたのでしょうか。インターネットが一般に普及する前は、主な勧誘手段はハガキによるものでした。実際にアポイントメント商法をしていた人から聞いた話しだと、まず最初に、「あなたは当社が実施したモニターキャンペーンに選ばれました。ハワイ旅行など豪華なプレゼントが当たる抽選を受けられますので一度お電話を下さい。」と書いたハガキを大量に送付します。そして不用意にも電話をしてきた人に抽選会場への来場アポを取り交わし、本来の目的である高額商品の販売を行なうと言うものです。もちろん 抽選で高額賞品が当たることなどありません。せいぜい数百円の粗品しか当たらないように仕込まれているからです。このように、本来の目的を告げずに会場に呼び出して実際には売買契約を行なう行為が典型的なアポイントメント商法と呼ばれるものです。

しかしこの方法は効率が悪かった。何故なら販売員は見込み客リストを作るために役所に出向いて住民票の閲覧を行い、見込み客の住所・氏名を1件あたり数十円のお金を支払って転記してくる必要があります。1週間あたり最低でも300人にハガキを送りますので、この名簿料とハガキ代、印刷代だけでも毎回3万円以上かかります。しかしこうした販売方法を行なう会社の販売員は基本的にはフ ルコミッション(完全歩合)制であるため、勧誘に係る費用はすべて販売員の自腹なのです。それでいて電話がかかってくる確立は10%未満で、最終的な契約 成立となるとわずか1~2%とのことでした。だから調子の悪いときは働けど働けど赤字が増えるばかりだと嘆いておりました(笑)。

そんな中、目をつけたのが出会い系サイトです。


現在のアポイントメント商法

男性なら良く分かると思いますが、出会い系サイトで実際に女性とデートの約束にまでこぎつけるのは至難の業です(私は知りませんよ利用したことがないので)。いくら創意工夫をこらして熱いメッセージを送りつづけても、返事すらもらえないと言うことも少なくないでしょう。ですから、いざ女性から「一度会いませんか?」なんて返事が来ようものなら舞い上がってしまって、すべてに優先して会いに出かけるのではないでしょうか。それが罠だとも知らずに。

逆にいえば、それほど出会い系サイトというものは女性に有利な売り手市場なのです。経費もほとんどかかりません。それでいてアポイントの確率は100%に近いでしょうね。もちろん出会い系サイトを利用する女性がすべて販売員だとは言いません。男性のメールアドレスを収集する目的だけで参加しているアダルトサイトのまわし者であることもあれば、メッセージ交換が有料のサイトの場合には、サクラ会員もいることでしょう(笑)。いえ、大袈裟な話しではありません。現にそれを裏付ける被害報告を多数見てきていますし、私が試験的にいくつかの出会い系サイトのデータファイルを合法的に覗いて見たところ、プロフィールが全く異なる女性にも関わらずメールアドレスがすべて同じものが多数存在し、そのアドレスの所有者を調べるとアダルトサイトのものであったということがありました。このあたりの具体的な話しはすでに前回までの章でご紹介したので省略します。

今回は、そんなデート商法に引っかかってしまった被害者が、なんと逆恨みのあまり脅迫の加害者になってしまったという実話をご紹介します。


被害者が加害者に

ことの始まりは、WEB110のヘルプデスクに届いた1件の相談メールからでした。

今年の二月に、出会い系サイトで知り合った女性に誘われ某有名宝石店の展示会に行きました。そこで360万円のアレキサンドライトが60万で買えると勧誘され契約を交わしたのですが、クーリングオフの期間が過ぎたらその女性とは連絡をとることができなくなりました。その後、親に言われてアレキサンドライトを鑑定してもらったら1万と言われました。お店に電話したらその女性は辞めましたと言われました。凄く信用していたせいか。絶望して、僕は生まれて始めて自殺を試みるようになりました。今も死にたいです。自殺マニュアルに載っていた薬を大量に飲んでも、トラックに突っ込んでも死ねませんでした。どうか助けてください。

このメールを読んだスタッフ一同の感想は、「ほんまかいな。そんなことで自殺するかな。」でした。しかし弁護士でもない我々が民事的な紛争に介入するわけにはいきませんので、最寄りの消費者センターに相談に行くようにアドバイスを返しました。すると今度は、当の販売会社の正式なメールアドレスから次のようなメールが続々と届き始めたのです。

Subject: 忠告
早々とこの問題から手を引きなさい。まだアドバイスを続けるようなら。どうなっても知りませんよ。HPに住所と名前載せてましたね。お気を付け下さい。

Subject: 死ね
死ね。っていうか殺す。私たちには出来ない事はない。あなた宛てに送られたメールも見れるし、まぁ被害届け位なら何にもならんからいいけど。こっちが不利になった場合はあなたを殺します。

Subject: フフフ
一つ教えておこう。奴のメールは自動的にこっちに転送されるようにしてある。携帯電話会社も金には弱いからねー。すぐにやってくれたよ。分かったら、とっととこの件から手を引きなさい。殺すよ。

Subject: 殺す
奴が消費生活センターに行ったら、奴とテメーを殺す。法律なんかくそ喰らえ。我々の邪魔をする奴は排除する。


これらはほんの一部ですが、このような脅迫メールがひっきりなしに届く最中も、相談者からは平行して何通もの相談のメールが来ています。「なんだかややこしいことになったなー」と思いつつも、このまま黙っていては威信に関わると判断して、脅迫メールの送信者を突き止めることにしました。

こうした場合、まずは動機の面から犯人像を推理します。今回の場合、容疑者は次の2名となります。ひとつは「販売会社の社員」。2つめは「相談者本人」です。会社が自らのメールアドレスで堂々と脅迫を行なうことはあり得ないと判断して当初から除外していましたが、念のため販売会社の広報部へ事実確認を行なってみると、会社のメールサーバーからはこの期間中にメールを送った記録はないとのこと。まあ、そうでしょうね。それどころか、この会社自身が半年も前から同様の脅迫メールを大量に受け取っていることが判明しました。

こうなると犯人は相談者にほぼ間違いなさそうです。しかしそれを決定付けるためには、相談者と脅迫メールの発信元が同じであることを証明しなければなりません。ところが、相談メールは携帯電話で、脅迫メールは海外の匿名メールサーバーから送信されており、即座に同一人物であることの確認が得られません。ここを確認するためには海外のメールサーバーの管理者からサーバーのアクセス記録を開示してもらう必要があるのです。幸いなことに当時、私は警視庁管内の警察署より講演の依頼を受けていたので、この点で警察の協力を得られることになりました。もちろん脅迫事件捜査という形で。ただしサイバー犯罪対策課(当時はハイテク犯罪対策課)といえども実際には捜査方法も英語も全然分からないとのことだったので、私が作成した英文の照会状を警察署からファックス送信してもらっただけですが。

(脅迫メールのヘッダ情報↓)

Received: from MTA
by Matrix id TAA13650
for help@web110.com; Thu, 19 Sep 2002 19:49:33 +0900
Received: by sxu1005.smtp-gw.to (8.8.8/8.8.8) id GAA11755;
Thu, 19 Sep 2002 06:48:43 -0400 (EDT)

 

(海外への照会文↓)

To Whom May Concern:
From: The Tokyo Metropolitan Police Department, Japan

This is a message from the Tokyo Metropolitan Police Dept. ABC Police Station, Community Safety Section, inquiring for your cooperation with the investigation involving an intimidation case via email.
From Sat. 14 Sep. 2002 to Thu. 19 Sep. 2002, six threatening emails were sent to the victim using the mail server under your company’s management.
It has already confirmed that the email address at the “From” section is forged and that the original holder of the forged email address did not send those six email .
Therefore, to find out from which network the sender made an access to the mail server, we like to make an inquiry to the mail server administrator about the communication log during that time. So we like to ask you to inform us of the mail server administrator’s contact address in question (sxu1005.smtp-gw.to)
以下省略

さて、海外からの返事が来るのを待つ間、ちょっとした牽制目的をこめて相談者の自宅に電話をかけてみることにしました。もちろん相談者は名前以外は明かしていませんでしたが、大まかな居住地と苗字がわかっていたので104ですぐにそれらしき電話番号が判明しました。

ためしに電話をすると父親が出まして、相談者が実在する息子であることが確認できました。ただし、父親の話しでは息子が宝石を買ったことも聞いてないし、事故をしたこともないし、まして鑑定に出すように薦めたこともないとのこと。これにより、少なくとも自殺未遂や鑑定結果の話しはデタラメであることが判明しました。ついでに脅迫メールのこともそれとなく話しておきました。するとその日の夜、きっと自宅を知られたことの焦りからか、相談者から「もう解決しました。いままで相談に乗ってくれて有難うございました。もういいです。」という簡単なメールが届きました。でも今更遅いですよね。そんなことで許すほど甘くはありません。

海外のメールサーバーからの回答はすぐにありました。さすが警察の威力。送られてきたアクセスログの解析を行なったところ、発信元は相談者と同じ携帯電話のIPアドレスでした。予想通りです。引き続き、携帯電話会社宛に当該IPアドレスの契約者情報を照会してもらったところ、みごとに相談者の名前が挙がってきました。ビンゴです。これらの証拠をもとに警察署から相談者へ電話をしてもらいましたところ、あっさりと観念して以下のような謝罪文を送ってくることとなりました。

DSCF0028

↑犯人からの謝罪文。恐怖なんて感じてないっての。

私としても、別に犯人に刑事責任を負わせるつもりも損害賠償を請求するつもりもなかったので、これで許してあげましたが、なんともやるせない事件でしたね。後にこの販売会社の評判も調べてみましたが、結構強引な契約を行なっているらしく、全国の消費者センターにも年間1千件の苦情が寄せられていることが分かりました。

しかし今回の場合、販売会社に送られてきたすべての脅迫メールも見た限りでは、どうもこの相談者は、契約うんぬんという問題よりも、契約をしたとたんに行方をくらました女性に対しての個人的感情で暴走したように思えます。

悪質な販売業者を擁護するつもりは毛頭ありませんが、だまされた己の愚かさを棚に上げて、ボランティアで相談をしている私たちを巻き込むなんて言語道断。皆さんはくれぐれもそのような事のないように、出会い系サイトに過度の期待を抱かないように心してくださいね。

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