韓国のディープフェイク性犯罪防止法(概要)

前回「深刻化するディープフェイクポルノの現状とこれからの課題」という記事の中で韓国の「ディープフェイク性犯罪防止法」に触れていましたが、今回はその内容を詳しくまとめてみることにしました。

「ディープフェイク性犯罪防止法」とは

「ディープフェイク性犯罪防止法」とは、現行の「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」、「児童・青少年の性保護に関する法律」、「性暴力防止及び被害者保護等に関する法律」という3つの法律を一部改正するための法案らしいことがわかったので、それぞれどのように改正しようとするものかを個別に整理してみました。

注:もしかすると内容の理解が誤っているところがあるかも知れませんので、予めご了解ください。

「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」改正概要

性暴力犯罪の処罰等に関する特例法(改正内容はまだ反映されていない)
https://www.law.go.kr/lsInfoP.do?lsiSeq=261453&efYd=20240627#0000

改正前

「性犯罪処罰等に関する特例法」は、主に本人の同意なく撮影・録音された違法な記録物の配布や流布を規制していました。しかし、ディープフェイクなどの偽造映像物(性的搾取動画等)の所持、視聴、保存に関する具体的な罰則規定はありませんでした。

改正後

この改正により、ディープフェイク性的搾取動画などの偽造映像物の所持、購入、保存、視聴に関する新たな罰則規定が導入されました。特に、故意にディープフェイク性的搾取動画を所持又は視聴した者は、最高3年の懲役または最大3,000万ウォンの罰金で処罰されることが明記され、偽造映像物に対する法的規制が強化されました。

● 第14条の2、第4項(新設): ディープフェイク性的搾取動画の所持、購入、保存、視聴に関する罰則規定が新たに設けられました。

また、ディープフェイク性的搾取動画の所持及び配布に対する罰則も強化され、配布目的でない場合でも、従来の最高5年の懲役から最高7年に引き上げられ、より重大な行為に対しては最低3年の懲役が科されます。

● 第14条の2、第1項及び第2項(改正): ディープフェイク動画などの偽造映像物の配布および所持に対する罰則が強化されました。


「児童・青少年の性保護に関する法律」改正概要

児童・青少年の性保護に関する法律(改正内容はまだ反映されていない)
https://www.law.go.kr/lsInfoP.do?lsiSeq=261453&efYd=20240627#0000

改正前

「児童・青少年の性保護に関する法律」には、性的搾取物に関連する児童・青少年に対する犯罪に対する基本的な処罰規定がありましたが、デジタル性犯罪における児童・青少年に対する脅迫や強要に関する具体的な規定が不足していました。

改正後

この改正により、性的搾取物を使用して児童・青少年に対する脅迫や強要を行う犯罪に対する新たな罰則規定が設けられました。性的搾取物を用いて児童または青少年を脅迫した者は、3年以上の懲役に処され、これによりその権利行使を妨害したり、義務のないことを行わせた者は、5年以上の懲役に処されます。

● 第11条の2(新設 ): 児童・青少年に対して性的搾取物を用いて脅迫や強要を行う犯罪に対する処罰規定。

また、デジタル性犯罪で緊急の捜査が必要な場合、今回の改正により、司法警察官が上級機関の事前承認なしに捜査を行うことが可能となりました。これにより、デジタル性犯罪に迅速に対応し、被害の最小化が図られます。

● 第25条の4(新設 ): 緊急のデジタル性犯罪において、事前承認なしにおとり捜査を行うことが可能となる規定。

最後に、司法警察官にはデジタル性犯罪の拡散を防ぐための措置を講じる義務が与えられました。児童・青少年に対する性的搾取物が情報通信網を通じて掲載、上映、配布されていることを確認した場合、司法警察官は直ちに韓国通信基準委員会に削除またはアクセス遮断を要請しなければなりません。

● 第38条の2(新設 ): 児童・青少年の性的搾取物の配布を阻止するための措置を講じる義務を司法警察官に課す規定。


「性暴力防止及び被害者保護等に関する法律」改正概要

性暴力防止及び被害者保護等に関する法律(改正内容はまだ反映されていない)
https://www.law.go.kr/lsInfoP.do?lsiSeq=261451&efYd=20240627#0000

主な改正内容

● 第3条第1項第8号(新設):「国等の責務」に違法撮影物等の削除支援及び被害者に対する日常回復支援を明示した。

● 第7条の3(改正):違法撮影物等による被害者への支援等

違法撮影物等の削除支援主体に地方自治体を追加し、削除支援対象に被害者の身元情報(住所、氏名、年齢、職業、学校、容姿、その他対象者を特定して把握できるようにする人柄や写真などをいう)を含め、求償権の行使に必要な個人情報の要請根拠を設ける。

  • 身元情報とは、住所、氏名、年齢、職業、学校、容姿、その他対象者を特定して把握できるようにする人柄や写真などをいう
  • 違法撮影物等の削除に要した費用は、罪を犯した児童・青少年対象犯罪行為者が負担する。
  • 求償権の行使金額の算定方法は、毎年女性家族部長官が定めて告示する
  • 国及び地方公共団体は、求償権の行使のために大統領令で定めるところにより、第4項の性暴力行為者又は児童・青少年対象性犯罪行為者の人的事項及び犯罪経歴の確認に必要な資料等を関係行政機関の長に要請することができる。この場合、要請を受けた者は、正当な理由がない限り、これに応じなければならない。

● 第7条の4(新設):中央と地域のデジタル性犯罪被害支援センターの設置・運営根拠を設ける

国は、違法撮影物等及び身元情報の削除支援と、当該違法撮影物等がインターネット上に流布されて被害を受けた人に対する保護・支援業務を遂行するために、「男女平等基本法」第46条の2により設立された韓国女性人権振興院に中央デジタル性犯罪被害者支援センターを置く。

中央デジタル性犯罪被害者支援センターは、次の各号の業務を行う。

①違法撮影物等の被害申告の受付・緊急相談と違法撮影物等・身上情報削除支援
②違法撮影物等・身元情報の削除支援及び被害予防に関する研究・広報
③違法撮影物等・身元情報削除支援及び被害防止関連従事者の教育・コンサルティング
④違法撮影物等・身元情報削除支援及び被害予防に関する国内外の協力体制の構築・交流
⑤違法撮影物等の被害を受けた人の保護・支援に関する総合管理システムの構築・運営
⑥第3項による地域デジタル性犯罪被害者支援センターへの支援
⑦その他、女性家族部令で定める違法撮影物等・身元情報削除支援及び被害予防に関する業務

市・道知事は、違法撮影物等及び身元情報に対する削除支援と該当不正撮影物等がインターネット上に流布され被害を受けた人に対する保護・支援を行うため、次の各号の業務を担当する地域デジタル性犯罪被害者支援センターを特別市、広域市、特別自治市、道、特別自治体におくことができる。

①違法撮影物等の被害申告の受付・相談及び事後管理
②違法撮影物等及び身元情報の削除支援
③違法撮影物等・身元情報削除支援及び被害防止関する教育・広報
④その他、女性家族部令で定める違法撮影物等・身元情報削除支援及び被害予防に関する業務

市・道知事は、地域デジタル性犯罪被害者支援センターの設置・運営を行う。

「公共機関の運営に関する法律」第4条に基づく公共機関又は違法撮影物等の被害防止を目的とする非営利法人に委託することができる。

地域デジタル性犯罪被害者支援センター及び地域デジタル性犯罪被害者支援センター(以下、「中央デジタル性犯罪被害者支援センター等」という。)の設置、運営及び第4項による委託等に必要な事項は、女性家族部令で定める。

● 第19条:相談員の資格基準

デジタル性犯罪被害者支援センターの相談員などの資格基準及び従事者の補修教育等の根拠を設ける

デジタル性犯罪被害者支援センターの相談員、保護施設に従事しようとする者は、専門知識や経歴など大統領令で定める資格基準を満たさなければならない。

● 第20条:補修教育の実施

女性家族部長官又は市・道知事は、相談所、保護施設及び統合支援センター従事者の資質を向上させるために補修教育を実施しなければならない


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