コロナ「緊急事態宣言」で困窮する弱者を狙うネットの闇
コロナウイルスの影響が長期化していることで、もともと弱い立場にいた人たちが今まで以上に厳しい状況に置かれている。派遣労働者、非正規労働者にその傾向が大きく、無給で自宅待機を命じられている人や、出勤日数を大幅に減らされた人は収入が激減し、途方に暮れている。 国や自治体は様々な緊急支援策を検討しているものの、現金給付や補償が遅れているうえ、対象にもならない可能性がある人や、貯蓄のない人はすでに困窮を極めている。その結果、自殺企図や犯罪(窃盗や強盗)をするまで追い込まれる人も出始めている。
そんな中、SNS上では仕事や助けを求める生活困窮者からのSOSが相次ぎ、 そこに付け込むかのように“闇バイト”や“パパ活”を持ち掛ける動きが活発化してきている。
SNSの“闇バイト”の実態
“闇バイト“とは、高額報酬と引き換えに違法な仕事をするアルバイトを意味する言葉である。 ツイッターを「#裏バイト」「#闇バイト」のハッシュタグで検索すると、 ― 1日で大金を稼ぎたい方いませんか? ― 裏にリスクはつきものですが、確実に稼げます ― 叩き、運びではありません。 といった内容の求人をいくつも目にすることとなる。 なんとなくやばそうな仕事であることは想像つくものの、具体的にどんなことをするのかは、文面からだけではよく分からない。
「運び」とは、規制薬物や偽札などの密輸のことだ。 「叩き」とは暴力を伴う仕事を意味する。家に現金がいくらあるかを尋ねたあとで強盗に押し入る「アポ電強盗」と呼ばれる手口もこれに含まれるであろう。また、振り込め詐欺で被害者から現金を受け取る「受け子」や、ATMから現金を引き出す「出し子」を襲って現金を横取りする「取り子」と呼ばれる仕事も叩きの一種である。振り込め詐欺グループの幹部があらかじめ「取り子」を雇っておき、自分のグループの「受け子」や「出し子」から金を奪い取り、その債務を「受け子」や「出し子」に負わせようとする構図だ。別の詐欺グループの「受け子」や「出し子」から横取りするケースもあるようだ。いずれにせよ、金を奪われても警察に届けにくいため、泣き寝入りしてしまうことも多いだろう。
また、この手の募集条件には、「保証金」や「身分証」を求められることも少なくない。これは、運び屋がブツを持ち逃げしたり、「受け子」や「出し子」が指示役に対して「警察にばらす」などと脅して報酬を吊り上げようとしたりすることを阻止するのが狙いだ。 図1の募集条件では「保証金なし」と書かれてあるが、その代わりに身分証提示が必須となっている。電話面談の際に本人や身内の住所、電話番号などを詳しく聞かれるともに、運転免許証の画像データなどを求められる。「逃げたら画像や個人情報をツイッターに晒す」と脅しておけば保証金を取っておく必要がないということだ。辞めたいといえば「顔写真や家族の情報をネットに晒すぞ」と脅して抜け出せなくする。 2019年に大阪府警が摘発した少年らは取り調べで「バイトをやめたくても家に行くと脅されたりするのでやめられなかった」と説明しており、一度手を染めると容易に抜けられなくなる実態がこれらの募集条件からも垣間見える。
「テレグラム」とはチャット機能に特化したアプリである。これを使う理由はその秘匿性にある。一定時間が経過すると会話履歴が自動削除され証拠が残らない点や、スクリーンショットを制限できる機能やメッセージの転送を禁止することもできるため、安全に裏取引ができるということであろう。
◇闇バイトの特徴
- SNSで募集されている(正規の求人サイトの広告でも怪しいものはある)
- 仕事内容や報酬などの具体的な説明がない、もしくは曖昧
- 通常ではありえない高報酬なのに誰でも出来るとうたっている
お金に困ったからと言って素人がこうした仕事に手を出すと、泥沼地獄が待っている。 警察では、このような闇バイトに引きずり込まれる人が出ないよう、「#闇バイト」などのハッシュタグつきでメッセージを発信している。
コロナで金欠 “パパ募集”
― パパ活初心者だけど、コロナの影響でとっても困ってる。
― 変なことなしでお小遣いくれるひといないかなぁ
「#パパ活初心者」でツイッターを検索すると、コロナの影響でお金がなくて困っているという投稿が目に付く(図3)。もともとパパ活をしていたというのではなく、ここ数か月の非常事態によって一気に収入が減ってしまった少女たちが、やむにやまれずそうしているようにも見える。
「パパ活」とは、男性と食事やデートなどをする代わりに金品を受ける援助交際のことで、性的な行為を伴わないことが前提となっているが、実態はそうとは限らない。遊ぶためのちょっとしたお小遣い欲しさでパパ活をしているわけではなく、仕事が減って生活費や学費が払えず、家庭の事情で親にも頼れない状況と考えればそれなりの金額を必要としているはずで、そこに付け込んで性的な関係を求めてくる男がいても不思議ではない。
そしてその予想を裏付けるかのように、高額保証をちらつかせて気を引こうとするパパからの誘引も活発に行われている(図4)。
このような投稿は、女性側の年齢が明記されていないことが多く、児童に対するセクスティングという扱いで削除をすることが難しく、未成年者が性被害に遭う前に取り締まることはほぼ不可能だ。成人女性であっても、このような形で知り合った相手から暴行される可能性は十分あることから、SNS事業者側で何らかの対応をして欲しいところであるが、米国の法律に従って運用されていることから期待どおりには運ばない。 そのため今できることとしては、パパを探している女性の投稿にメッセージを送って、公的な支援に繋ぐということぐらいしか思い浮かばない。 しかしそもそも、繋げられる支援が整備されているのかどうかという問題もある。
10万円給付金支給をかたる偽メール
政府が全国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」を発表したことを受け、「申請手続きの代行」や「お客様の所在確認」といった名目で個人情報を入力させようとする不審なメールやショートメッセージ(SMS)が全国で相次いだ。
この一律10万円を支給する「特別定額給付金」の申請については、住民基本台帳に記録されている全世帯に各区市町村から郵送で「申請書」が届くことになっており、メールや電話で申請をすることはない。今後も新たな給付金が発表されるたびに同様に便乗メールが送られてくる可能性があるので注意していただきたい。
4/22にはKDDI/auを名乗り、特別定額給付金の手続き方法の案内を装うメールが確認され、 4/23には楽天モバイルを名乗る、給付手続き代行のメールが確認された。 メール本文中のリンクをクリックさせて給付申請に必要な銀行口座や個人情報を騙し取ろうとする手口とみられる。
コロナの生活困窮による犯罪が起き始めている
4月25日、60代の男が閉店後のスーパーに侵入し、カップ麺などを盗んだ疑いで逮捕された。警察の調べに対して「コロナの影響で仕事がなくなり腹が減っていた」と供述していたそうだ。 また4月27日には、横浜市でアパートの内見中に不動産会社の女性が刃物で刺される強盗殺人未遂事件が起きた。逮捕された無職の男(24)が「新型コロナウイルスの影響で働けなくなり、生活が苦しかった」と供述していたそうだ。
どんなに困窮しても人を殺めてよい理由にはならないが、社会のセーフティネットからこぼれ落ちてしまった人が、生きるための最後の選択を誤ってしまうことはこれからも起こり得るだろう。
本当の弱者に届かない救済制度
今、緊急事態によって経済的ダメージを受けている国民のために、政府は新たな制度を緊急的に作り、また、これまでの制度を拡大して適用しようとする動きがあるが、どんなに良い制度があっても、それを必要としている人に届かなければ意味はない。 加藤勝信厚生労働相は4月25日、新型コロナウイルスの感染拡大で業績悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する「雇用調整助成金」について、中小企業向けの助成を上乗せする方針を表明した。しかしこの助成金は企業側が申請をしないと休業補償費用が支給されず、労働者のもとに支払われることがない。 企業の自己負担も生じるし、申請書類も煩雑なため利用しない企業も多く、いくら支給額を上積みしたところで、労働者のもとに手当が届かなければ意味がない。
1人10万円の現金給付も世帯ごとの支給が基本とされている。しかしそれだと家族の中で虐待、ネグレクトされている子供たちに使われるとは思えない。「個人単位の給付にできないのか?」との国会質疑の場で安倍総理は、「虐待等で施設に入所している人は一定の手続きを経て給付金が受けられる仕組みになっているはずだ。」と述べていたが、入所していない子供に対する考えは口にしなかった。
情報を届けるだけで救える人もいる
「安易にお金を稼ごうとするな」とか、「どんなに困っても良識ある人は犯罪に逃げない」などと正論を述べても誰一人助けることはできない。 自分がやっていることが反社会的なことだと分かっていても、今日明日の食事や寝る場所にも困窮している人にとってはまさに背に腹は代えられないという状況ではないか。 そこまで追い込んでいるのが政治や行政だとすると、社会のセーフティネットからこぼれ落ちてしまった犠牲者にしてしまわぬよう、一刻も早い支援や救済策を講じる必要があるだろう。
しかし役所がやることはどうしても時間がかかる。そのためいつだって民間ボランティアが率先して支援活動を始め、現場から見えてくる課題を国に提言するということの繰り返しだ。
虐待などで家にいられない10代の少女を支援している「一般社団法人Colabo」は、今月から渋谷と新宿で毎週「夜カフェ」を開いて、無料で食事や衣服などを提供している。 この支援活動はSNSを通じて広がり、全国から相談が急増している。
新宿区を拠点に、ホームレス状態にある人がアパートで新生活を始めるための暮らしの基盤作りを手伝う活動を行っている「認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」は、現在、【新型コロナウイルス】臨時相談会を開催している。
寝る場所を失い路上生活になってしまった人は、情報が入りにくい。 せっかく救済制度を用意しても、その情報を知らないまま追い詰められている人もたくさんいるはず。 どうすれば支援の存在を届けられて、取り返しのつかない道に進もうとしている人を救えるのか、まずは1人でも多くの人が現状を知り、問題認識の共有をしていくことが必要だろう。
以上