WEB110には、毎日のようにオークションにおける詐欺被害の報告が寄せられているが、9月に入ってから新手の手口が登場し、多くの消費者を翻弄している。「飯田純一」と名乗る容疑者は、モニターやメモリ、CPUなど多数の商品を架空出品し代金を騙し取っているが、落札者を信用させて代金を先払いさせるために住民票をスキャンした画像をメールに添付して送っているのだ。

(これがその画像)https://web110.com/wanted/img/jyuuminhyou.JPG

もちろん、偽物である。大田区役所には過去5年にさかのぼってこのような住民登録は存在していない。よく見れば住所や氏名の部分がにじんでいるのが分かるだろう。これはおそらく実際の住民票を画像処理して改竄したものであり、スキャナーと画像処理ソフトさえあれば誰にでも出来る簡単な作業だ。同様の方法で免許証や保険証なども改竄できる。このことから、「スキャン画像は全く信用できない」と言うことだけ断言できる。

この手口によるWEB110への被害報告は9/14の最初の通報から4日間で7名にのぼるが、 誰一人、相手の電話番号を確認していた人はいなかった。いまさら不注意を責めても始まらないが、果 てしてこういったオークション詐欺の被害はいつまで続くのだろうか…。 取引上の注意点は常々より伝搬してきたし、各オークションサイトにおいても表示されているはずである。にもかかわらず、被害者は増える一方である。ということはつまり、いくら注意を促しても、もはや利用者側の自己責任だけでは詐欺を防ぐことには限界があると言うことのようだ。

ならば、ということで私が大いに期待しているのが、人工知能(AI)による詐欺検知システムだ。オークションサイトで、これを採用しているところはまだないと思うが、金融業界ではすでに様々なシステムを導入している。昨年90億円もの被害を生んだ国際カード詐欺事件(通 称N-BILL事件)において、我々と一緒に事件を告発してきたブラジルの銀行も、セキュリティー部門において詐欺検知システムを使用していた。「Falcon」と呼ばれるそのシステムは、数億人レベルのカードホルダーの購買履歴と詐欺師の購買パターンなどを把握し、毎日電子的に通 過する膨大な量のデータの中から不審な取引を検知する。これにより、この銀行は世界で唯一、彼らの不正請求を検知し、即座にカードホルダーに電話確認を取ることで口座からの引き落としを未然に阻止していた。

詐欺検知システムにもいろいろ種類があるが、現在最も優秀だと思えるのはロンドン証券取引所が採用している英サーチスペース社の「モニターズ」という知的取引監視ソフトだ。これは、遺伝的アルゴリズム、ファジー理論、ニューラル・ネットワーク技術を融合させたもので、進化する詐欺の手口に対応できる優秀な学習能力を兼ね備えている。

オークションにおいては、個人対個人の売買になるため、ほとんどが銀行振込による現金決済になっているが、その他のオンラインショッピングではカード決済が主流になりつつある。しかし、一方ではカード情報流出に対する不安が足かせになっていることも事実。そんな中、米アメリカン・エキスプレス社は、インターネット上でクレジットカード番号を送信することなくカード決済ができるプログラム「プライベート・ペイメンツ」を発表した。顧客は商品を購入するたびに、ランダムに選ばれた番号を受け取るが、この番号は取引後には無効になり1回しか使用できないので不正請求を回避できる上、カード番号の保護にも繋がる。ただし、プロバイダーやアダルトサイトの会費のように毎月更新されるメンバーシップの支払いには使えないだろうから、用途はもっぱら通 信販売に限定される。

こうした技術がオークション詐欺にも応用できれば、被害はずいぶん減少するのではないだろうか。詐欺検知システムが導入されれば、少なくとも、すでに被害報告が上がっている銀行口座やID、出品パターンでの追加出品は未然に防げるだろうし、それに加えて「プライベート・ペイメンツ」のようなカード決済を導入すれば、万一詐欺にあってもカード会社の保険で損害は補填されることになる。
今後、オークションサイトの真価を問うものは、取引量の多さでも利用のしやすさでもなく、いかに消費者が負うリスクを少なくするか、ではないだろうか。例え無料のオークションサイトであっても広告料で莫大な収入を得ているはずだから、詐欺防止の企業努力は怠って欲しくないと思うのである。