※この記事は2001年当時に投稿したものです。
随分前に新聞記事で読んだ話しだが、ある中堅会社の社長は、毎晩100通近い社員全てのメールの内容に目を通している。社長に宛てたメールという意味ではない。社員が同僚や取引先、友人などに送ったメールである。もちろん社員はその事は知らない。そして「私用メール」「機密漏洩」「不倫」「社内恋愛」などの素行チェックをしているのだという。つまり社員として不適切な行為がされていないかどうかをチェックするためだと。あくまで企業の自己防衛のための正当な行為であるということらしいが、それだけでなく社員の端末のブラウザーの履歴まで調べているという。
しかし驚いたことにこういった社内メールの検閲は、多くの企業で平然と行われていることが新聞社のアンケート調査でも分かった。ある大手企業の「ネットワーク利用に関するガイドライン」では、業務目的以外でのインターネットの利用は禁止されている。 従って検閲の結果、これらの事実が判明すれば就業規則違反で解雇の理由にもなるのだという。事実、調査によると女性社員のメールの8割が私用メールであったそうな。 確かに理屈では社内メールは会社の備品と同じ扱いであるから、私用が認められないのは当然と言えば当然だろう。
■産業スパイ
また、世の中には産業スパイというものが存在することも事実だ。そして彼らを監視する任務に就く者が総務部などに密かに配置されて、怪しい人物の行動を逐一監視しているという話は聞いたことがある。一方、「通信傍受法案」の審議が国会で進んでいる。ファックス・メールの盗聴を捜査当局に認める内容が盛り込まれている。米国ではすでに10年前に合法化された法律である。たしかにハイテク犯罪の捜査には大きな効果 をもたらす法案であろう。だが、果てしてプロの産業スパイが外部との連絡手段に社内メールなど使うだろうか? 一口にメールと言っても社内ネットワークから個人のメールを受信することだってあるだろうし、ウェブメーラーを使えばローカルマシンにメッセージダウンロードすることなくウェブサイト上で送受信も可能だ。こうなった場合に、果たして会社はどこまで検閲の権利を有することになるのだろうか?また、社内メールの検閲が機密漏洩にどれほどの効果 をもつものだろうか? 逆にそういった危機管理体制の中で、社員のプライバシーを不当に侵害する危険性があることを多くの企業は理解しているのだろうか…。
■ネットワーク管理者がストーカー
WEB110が相談を受けたネットストーカー被害の中に実例がある。あるOLが自宅の電話番号を出会い系サイトに無断投稿された。同時にメールも盗聴されている形跡がある。調べてみると犯人は社内のネットワーク管理をする情報システム部の人間でることが判明した。犯人がネットワーク管理者ではログの消去も朝飯前なので、証拠収集には随分神経を使ったものだ。ましてこの会社は誰もが知っている超有名大企業だった。社内の不祥事が外部に知られることを恐れて会社ぐるみで証拠をもみ消される可能性も十分あり得る話しである。
このように、社員の通信内容を検閲できる権限を持っている人間の管理が曖昧な状況での検閲行為は一歩間違えるとプライバシーの侵害に発展する可能性が十分あるわけだ。 これらのことから言えることは、会社が社内メールの検閲を行う際には事前にその事を社員に通知する必要があり、検閲の範囲と罰則規定を就業規則にもきちんと定めておくべきだろう。そして何よりも、サーバー管理者の管理には細心の注意を払ってもらいたいものだ。